本件は,昭和51年から平成25年まで,ゴムの精錬・配合を行う作業に従事していた方が悪性中皮腫により死亡したことを受け,その遺族が,就労先であったゴム精錬会社を相手に,損害賠償請求訴訟を行ったものです。

  1. ゴムの精錬・配合作業とアスベストばく露
    悪性中皮腫は,基本的にはアスベストにばく露しなければ発症しないと考えられていますが,ゴムの精錬・配合を行う作業とアスベストばく露は簡単には結び付かないように思われると思います。実際,このゴム精錬会社でもアスベストそのものを使用した作業は行っていたことは確認できませんでした。
    しかし,この会社では,精錬・配合したゴム同士の防着等のためにタルクを使用していたことがありました。
    タルクとは,鉱山で産出される鉱物で,これを粉砕して粉末状にしたうえで,食品添加剤や,ベビーパウダーなど化粧品類,医薬品などとして使用されています。そして,タルクの原石が産出される鉱山にはアスベストが共存していることがあるため,品質確保が徹底されなければ,タルクにアスベストが不純物として混入してしまう可能性は高く,昭和50年頃の学術論文でもタルクにアスベストが混入していることがあるという調査結果が報告されていました。現在では品質管理が徹底されて,安全上問題になることはないと言われていますが,昭和62年に,タルクを原料とするベビーパウダーの一部からアスベストが検出されたことをうけて厚生省(当時)から品質確保に関する通知がなされるまでは,特段の措置はなされていなかったため,昭和62年以前のタルクには,アスベストが不純物として混入していた可能性が高いものと考えられました。

    本件の労災認定でも,昭和62年の厚生省(当時)の通知以前のタルクには,一般にアスベストが混入していたことを前提に,この会社でのゴムの精錬・配合等の作業が石綿ばく露作業であるとする認定が行われていました。


  2. 訴訟の経過
    平成28年6月,ゴム精錬会社を被告として訴訟提起をしましたが,会社側はゴムの精錬・配合を行う作業でのアスベストばく露を全面的に争う姿勢でした。
    裁判所も,ゴム精錬会社での就労以前に,建設現場でアスベストばく露作業に従事歴が確認されていたという特殊性も相まって,当時のタルクには一般的にアスベストが混入していた可能性が高かったということだけでは足りず,被告ゴム精錬会社で当時使用していたタルクのアスベスト混入の事実について具体的な立証を求めました。
    もっとも,30年以上前のことなので,被告ゴム精錬会社が当時使用していたタルクが残っているはずもなく,検査結果等の資料も一切確認することができませんでした。
    そこで,弁護団は,被告ゴム精錬会社が昭和62年以前にタルクを購入していた業者をたどってアスベスト混入の事実を調査したり,昭和50年頃にタルクにアスベストが混入していたという調査結果を報告した専門家との面談も行い,労災認定上,一般にタルクにアスベストが混入していたことを前提とする運用がされることとなった経緯の調査を行ったりしました。

  3. 解決内容
    弁護団の調査によっても,決定的な証拠となるような資料にたどり着くことはできませんでしたが,裁判所からは,弁護団の調査結果も踏まえ,解決金の範囲にとどまらない金額の和解案が提示されました。
    被告ゴム精錬会社も遺族に対する見舞金を上乗せした金額で和解に応じる意向であったことを踏まえ,平成30年12月,和解での解決に至りました。


  4. 隠れたアスベスト被害の救済に向けて
    本件では,建設現場でアスベストばく露作業に従事していた可能性があったことで労災申請を行うに至り,その中で,ゴム精錬会社でのアスベストばく露も明らかになりました。訴訟においては,建設現場でのアスベストばく露作業歴が足かせとなってしまった部分もありますが,元をたどれば,この作業歴がなければ,ゴム精錬会社でのアスベストばく露も明らかにならず,ご遺族が弁護団に相談されることもなかったかもしれません。

    タルクに限らず,知らず知らずのうちにアスベストばく露作業に従事していたということも十分に考えられますので,アスベストばく露が疑われる疾患に罹患しているなど,少しでも気になることがあれば,弁護団にご連絡ください。

2018(平成30)年12月、和解解決に至りました。